少子高齢化が進む今日、過疎地でなくとも空き家、空き地の増加が目立つ中、親から相続を受けたが固定資産税の支払いや草木の手入れなどを続けることが負担になっており、いっそ所有権を放棄したいとの要求も強まっています。
3月13日付日本経済新聞の記事によりますと、財務省は個人が不要になった土地・建物を国に寄付できる新制度をつくる検討に入ったとのことです。
現在では、不要な不動産の所有者は、まずは、市町村への寄付を試みますが、たまたま道路用地であったというように行政目的がない限りは、寄付を受けてもらえないようです。
国への寄付も同様で、財務省のウェブサイトには「国に土地等を寄付したいと考えていますが、可能でしょうか」というQ&A が掲載されていて、行政目的がない限り寄付を受けないことなどが回答されています。
不要となった不動産の所有権を放棄できるかについては明確な規定や判例がなく、学説も定まっていません。民法239条には、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」という規定がありますが、仮に、所有権の放棄が認められれば、国の所有に移ることになります。不動産の所有権の放棄に関しては、一般論としては、動産で放棄ができるのであれば、不動産でも明確に禁じる規定がない以上、放棄はできるとの説が多数派です。
では、実際、どのようにして放棄するのでしょうか。動産の場合と異なり不動産の場合は登記の問題があります。
所有権放棄者が自分だけで登記申請して、自分名義の所有権登記を抹消できるかというと、実務的にはそうではありません。所有権を取得することになる国と所有権放棄者との双方が申請人となって登記申請して(共同申請の原則、不動産登記法60 条)、あるいは、財務局長等が登記を嘱託して(同法116 条1 項)、所有権放棄者から国への所有権移転登記をすることになります。
ということは、所有権を放棄しても、国の協力が得られないときは所有権放棄を登記できないということです。登記できない以上、所有権を放棄してもその実質は得られませんので、現状、不動産所有権の放棄は登記の問題から事実上不可能とされていることになります。
現在は、所有権の放棄はしたくとも登記の手段がなく、できない状態になっているが、相続放棄すれば国に引き取ってもらうことができます。相続放棄は不要な不動産のみを選択的に行うことはできず、遺産すべてを放棄しなければなりませんが、相続人全員が相続放棄して相続人不存在となった場合、自治体などによって選任された相続財産管理人が換価して残余があれば、国庫に納付されます。しかし、相続財産管理人の選任には費用がかかるため、相続放棄後、こうした手続きが行われることは稀です。
近年、所有者が分からなくなっている土地の多さが社会問題化していますが、財務省は、こうした不動産を国が寄付で集めることで相続放棄を抑制しつつ、民間の仲介業者も活用して、近隣の民間事業者らに売却したり貸し出したりできるようにすることを目指しています。
政府は、以前のコラムでも取り上げました相続登記の義務付けなど2020年の実現を目指す他の土地放棄対策の議論を踏まえ、実施時期を詰めていく方針とのことです。
ページ作成日 2019-03-18