遺産分割前に被相続人名義の口座から出金可能になる?~改正相続法施行情報①~


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  • 遺産分割前に被相続人名義の口座から出金可能になる?~改正相続法施行情報①~ 2019-06-18

     昨年(平成30年)、相続法が約40年ぶりに大改正されました。
    各改正条文は今年1月より順次施行していきますが、なかでも来月1日は改正法の施行が相次いでおります。こちらのコラムでも何回かに分けてこの施行情報をお知らせしていきます。

    来月は従来の「遺産分割」の制度が見直されることによる改正が施行されることになります。

    ① 持戻し免除の意思表示の推定規定
     民法上、相続人に対して遺贈または贈与が行われた場合には、原則として、その贈与を受けた財産も遺産に持ち戻した上で相続分を計算し、また、遺贈または贈与を受けた分を差し引いて遺産を分割する際の取得分を決めることとされています。
     このため、被相続人(=亡くなった方)が生前、配偶者に対して自宅土地または建物を贈与した場合でも、その居住用不動産は遺産の先渡し(=特別受益)があったものとして取り扱われ、配偶者が遺産分割において受け取ることができる財産の総額がその分減らされていました。その結果、被相続人が「自分の死後に配偶者が生活に困らないように」との趣旨で生前贈与をしても、原則として配偶者が受け取る財産の総額は、生前贈与をしないときと変わりませんでした。 
     このままでは、遺産分割において被相続人の意思を反映させるのが難しいので、結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して居住用不動産の遺贈または贈与がされた場合には、被相続人が「遺産分割において持戻し計算をしなくてよい」という旨の意思表示をしたものと推定して、原則として、遺産分割における計算上、「遺産の先渡しがされたものとして取り扱う必要がない」こととしました。これにより、配偶者が遺産分割においてより多くの財産を取得することができるようになります。

    ② 遺産分割前の払戻し制度の創設等
     以前のコラムでもふれましたが、原則的には、相続された貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれるため共同相続人による一人からは単独で払戻しができません(「口座凍結」と言われ、一部金融機関で例外の取り扱いがありました)。そうなると、生活費や医療費の立て替えや葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などがある場合にも、遺産分割が終了するまでの間は、被相続人の預貯金の払戻しができなくなってしまいます。
     そこで、各共同相続人は、金融機関の窓口において、自身が被相続人の相続人であること、そして、その相続分の割合を示した上で、遺産に属する預貯金債権のうち、口座ごとに次の計算式で求められる額までについては、家庭裁判所の判断を経ないで、なおかつ他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しが可能となります。
     
    【計算式】
    単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)× 1/3 ×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)
    ※ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、法務省令で定める額(150万円)を限度とします。
    なお、上記の【計算式】を超える部分についても、家庭裁判所の認定を受けることで、遺産分割協議を経る前に仮渡しが認められるようになります。

     以前は基本的には認められていない「キャッシュカードと暗証番号の共有」という方法で万が一の際の引き出し対策をされている方もいらっしゃいました。1回の引き出し額に上限はあるものの、窓口ではなく、ATMを使うことで葬儀資金等を引き出す事ができるからです。
     今後は、自分の大事な家族が亡くなるという悲しい状況下で、罪悪感を感じながらもこのようなグレーな手段を選ばなくてもよくなるというのは良い改正ではないかと思います。


    ページ作成日 2019-06-18