遺留分減殺請求による不動産の共有化はなくなる?~改正相続法施行情報②~


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  • 遺留分減殺請求による不動産の共有化はなくなる?~改正相続法施行情報②~ 2019-07-01


     昨年(平成30年)、相続法が約40年ぶりに大改正されました。
    各改正条文は今年1月より順次施行していきますが、なかでも今月1日は改正法の施行が相次いでおります。前回のコラムに続きましてこの施行情報の続編をお知らせしていきます。

     まずは前回の続きとなります従来の「遺産分割」の制度が見直されることによる改正の施行情報からになります。
    ③ 遺産分割前に処分された財産の取扱いの明確化
     3つ目の遺産分割に関する改正点は、「遺産分割前に処分された財産の取扱いの明確化」です。
    現行法では遺産分割の前に遺産に属する財産が一部または全部が処分された場合の明文化が無く、驚くことに実務では、その処分された財産については遺産分割の対象にならないことが多かったのです。例えば相続人の1人が遺産の一部を使い込んでいても、現に残っている遺産のみを相続財産として分割するため、結果的に他の相続人より多くの遺産をもらえることになっていました。
     改正法では、その処分した相続人以外の相続人全員の同意により、その処分された財産を遺産分割の対象に含めることが明文化されました。これにより改正後は、使い込んだ本人の同意なしに、その使い込んだ財産も遺産の一部であるものとして平等に遺産分割協議を行うことができます。

    ④ 「一部分割」の明文化
     4つ目の遺産分割に関する改正点は、『一部分割』の明文化です。
    今回、民法第907条というところの条文が以下のように変わりました。
    (太字の文言が追加されました)
    『共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。』
     これにより、これまで民法上は規定されていなかったけど、実務上は当たり前のように行われていた「遺産の一部分割(何度かに分けて遺産分割協議を行うこと)」が法律上明文化されることになりました。


     続きまして、その他の制度が見直されることによる改正の施行情報になります。
    ⑤ 遺留分制度に関する見直し
     遺留分制度とは、遺贈や生前贈与などにより特定の者だけに財産が残された場合などでも、一定範囲の相続人に対して、被相続人の財産の一定割合の取り分の取り戻しを認める制度です。また、これらの相続人が、侵害された取り分を取り戻すことができる権利を遺留分減殺請求権といいます。
    遺留分減殺請求権を行使すると、遺留分権者と遺贈等を受けた者との間で複雑な共有の状態が発生し、事業承継等の障害が発生する場合があります。
     そこで、遺留分減殺請求権から生ずる権利を遺留分侵害相当額の金銭の支払いでのみ請求できることとし、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に発生することを回避できるようにしました。また、このことにより、「遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたい」という遺言者の意思を尊重することもできます。
     さらに、その請求を受けた者が金銭を直ちには準備できないという事態を考慮し、受遺者等は、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払につき、期限の許可を求めることができるようにしました。

    ⑥ 相続人以外の者の貢献
     被相続人を療養看護等する者がいたという場合に、その者が相続人であれば寄与分等による調整が可能です。
    一方で、以前のコラムでも述べたように、その者が相続人ではないというときには、相続財産から何らの分配も受けることはできません。このような結果は、被相続人の療養看護等を全くしなかった相続人が相続財産から分配を受けることと比較して不公平ではないかという指摘がされてきました。
     そこで、例えば長男の妻のような相続人以外の親族が無償で被相続人に対する療養看護その他の労務の提供により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合には、相続人に対して金銭の支払いを請求できることとしました。

     以上、令和元年7月1日改正相続法の施行情報をお伝えしました。
    遺留分減殺請求の対象が金銭債権のみとなったとしても、現実に金銭を用意できない場合は不動産の売却等を迫られることになります。
    弊社のセミナーで取り上げております『家族信託』は改正後も有効な手段になりうると思われます。


    ページ作成日 2019-07-01