空き家の発生防止策となる家族信託の活用とは?


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  • 空き家の発生防止策となる家族信託の活用とは? 2019-08-20

      
     総務省は今年4月26日、2018年の調査で、全国の空き家がアパートなどの空き室も含めて846万戸あると発表しました。この数は、総住宅数の13.6%を占めるそうです。
    所有者による適切な管理が行われていない空き家は、多岐にわたる問題を引き起こす可能性があります。既に、空き家に起因した治安・安全性の低下、公衆衛生の悪化、景観の阻害等が地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることもあります。
    各自治体でも空き家対策に頭を悩ませていますが、その発生を防ぐことはできるのでしょうか?
     
     特に自宅として利用されていた不動産が、空き家となる主な原因は「相続」と「高齢による判断能力の低下(認知症等)」が挙げられます。
    もしも、何も対策することなく「相続」が発生した場合、遺産は相続人の共有になってしまいます。そして、原則は法定相続分に基づき遺産分割協議を進めていくことになります。
    例えば父親が亡くなった場合に、遺産のうち金銭は、母親(=配偶者)が2分の1、子どもは残り2分の1を子の人数で均等割りした割合で引き継ぐことで問題はないでしょう。
    しかしながら不動産は、法定相続分に基づいて持分で相続してしまっては、使い勝手が悪いので、共有を避けるのが一般的です。共有の状態では、亡き親の実家を取り壊して土地を更地にし売却したい場合は、共有者である相続人全員の合意が必要になります。 一人でも反対したら処分はできないのです。また、処分までしなくても、共有のままでは権利関係が複雑になってしまうのでこれもまた使い勝手が悪くなってしまいます。
     
     そこで、通常は、遺産分割協議の中で具体的に、各不動産の価値を考えながら「だれが何をどれだけ相続するか」を相続人全員で話し合って決めることになります。
    遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の合意が必要です。多数決では決められません。そのため、協議が難航してしまうと、亡き親が残した財産の処分ができなくなってしまいます。当然、既に空き家となった実家も例外ではありません。
     
     遺産分割協議の成立が難航する理由としては、相続人が全国に散らばっていたり、海外に居住していたりなどして話し合いの場が設けにくいケースが挙げられます。「メールでやりとりすればいいじゃない」とお考えの方もいるかもしれませんが、お金が絡む問題はそう簡単にいかないのが通常です。
    また、相続人が認知症のケースも考えられます。例えば、母親が認知症等で父親が死亡した場合、母親は意思能力が低下しているため遺産分割協議のような法律行為を行うことができません。このときは、遺産分割協議を行う前に、家庭裁判所に成年後見の申立てを行わなければなりません。そうなると、遺産分割協議の成立まで長期間を要することになってしまいます。
    さらに、家族仲が悪い場合、亡き親が離婚経験者であり前婚でも子どもがいた場合なども協議が難航することは想像に難くありません。
     
     このような面倒な遺産分割協議を経ることなく、遺産相続をすることが出来れば「相続」後に実家が長期間にわたって空き家となることは防ぐことができます。
    その手段として考えられるのは遺言を遺して、その中で各遺産の相続先を指定してしまうことが挙げられます。
     
     しかし、遺言では空き家発生の原因のうち「相続」によるものは防げても、「高齢による生活能力の低下(認知症等)」までは防げません。超高齢化社会の日本において最期を自宅で迎えることは稀となってきています。まだまだ健康なうちに、高齢者専用住宅者や各種施設に入居される方も多く見られます。
    自宅は結果として空き家となりますが、所有者が健康なうちであれば自ら売却することも可能です。しかし、認知症等を発症し契約自体が出来なくなってしまった後は、売りたくても売れなくなってしまいますので、空き家状態が長期化することになります。
     
     認知症になったら成年後見制度で対応するのはどうでしょうか?
    成年後見制度(法定後見)の場合、成年後見人をつけたとしても、自宅を売却するには家庭裁判所の許可が必要となります。もしも、本人(成年被後見人)に十分な預貯金があり、それで生活費・施設費・介護費などをまかなえるのであれば、家庭裁判所は不動産の売却許可を出さないと思われます。
     
     そこで家族信託の活用です。所有者が健康なうちに、自宅を信頼できる子供などに信託して所有者名義を変更しておきます。この時、贈与税や不動産取得税は発生しません。このようにしておけば、将来認知症等で判断能力が低下して施設等に入居した後でも、受託者である子供の判断と手続きでいつでも空き家となった自宅を売却して金銭に換えることができます。売買交渉や決済実務も、全て子供が行うことができるのです。もちろん、売却に際して家庭裁判所の許可は一切不要です。
     
     なお、信託契約の設計次第では、「相続」後に受託者が単独で売却することができるようにすることも可能ですので、家族信託を利用すれば、自宅が空き家となってしまう主な原因である「相続」と「高齢による判断能力の低下(認知症等)」の両方での予防効果が見込めるのです。


    ページ作成日 2019-08-20